荻悦子詩集「樫の火」より~「往還」

往還

気づかないふりをするのに
疲れた
いや
飽きてしまった

不意打ちに会い
(そうだったのか)
隠されていたことを
(とうに気づいてはいたが)
いまはっきりと受け止める

アスファルトの広い道
交差点の中央が急に盛り上がってくる
立った姿勢のまま
後方へ
私は踵からずり落ちる

あれらは
散らばる
さらに増える

雲が動いた
辺りがぽっと明るんだ
影のように
染みのように
あれらは
先まわりをし
行く手の路上で熱を発している

荻悦子(おぎ・えつこ)
1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。

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