プロカメラマンの秘密を探る⑬~鳥を撮るⅢ
年の瀬も迫るある日、上河原堰の調布側で空が朝焼けで赤く染まっている。今朝は、雲には特別な特徴はないがその中を遠くで何羽か鳥が飛んでいるのが見える。いつものカワウだろう。さて今日は何が撮れるかわからないが、とりあえず空にレンズを向けてみよう。
待ちの状態がしばらく続く。まもなく4羽ののカワウが近づいてきたので再度レンズを向ける。時々組んだ編隊の形は変化しているが、連射で何枚か撮ってみる。後で連射したものをチェックしてみると、丁度いい感じに4羽が並んだものがあった。何の変哲もない朝焼け雲がバックだが、カワウのナナメ横並びの姿がいい。少し地味かもしれないが構図として悪くない。偶然とはいえこれも儲けものの一枚と言える。
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「月は、満月より細くなった月の方が好きだ」と野村さんは言う。何とも言えない表情を感じているようだ。この日の早朝の月は撮りたい月の部類に入るものだった。森や山、海や川などをバックにした月の写真はたくさんある。しかし、今日の月は形は好きだが、周りはただ暗い空だけでに何もない。
”月に叢雲”とは、月を愛でるときの妨げになる邪魔な雲の群れを意味する。しかし、こう何もないと寂しい。つまり脇役がいないので主役が目立たないというか絵にならない。今日はダメかと思いつつも遠くでカワウが飛んでいるのは見えていた。あれがもしこっちに来てくれたらいい脇役になる。
どれほどの時間が過ぎた頃か、遠くから数羽のカワウがゆっくりとこちらに向かって飛んできた。近づいてきたのは3羽、悪くない。こちらの気持ちを斟酌することなく気の向くまま自由に飛び回っていて月にはまだ遠い。ここは待つしかない。月の近くに来てくれさえすればどうにかなりそうだ。
はたして、カワウが3羽月に近づいてくる。ずっと、月の横を狙うと決めていたので予定通りシャッターを切る。それで撮れたのがこの一枚。構図としてはまあまあといったところか。
私はこの一枚が好きだ。表現するのは難しいが、地味ながらも何かしら”いいもの”を感じる。バランスという言葉だけでは言い表せない何かがある。ただ自由に飛んでいただけのカワウ3羽だが、野村さんは、そこに月という背景を配した。どちらが主役なのかわからない。理由もなく、ただじっと見つめてしまう自分がいる。
~つづく~
(八咫烏)