おぼろげ記憶帖 14 フランスの犬

キース ヴアン ドンゲンというオランダの画家がいます。女性をこの上なく美しく素敵に描くことで有名な画家です。印象的に残る一枚は豪華なコートを着て、つばの広い帽子をかぶり、ダルメシアンを連れて街を歩く姿です。この画家は帽子と犬がモチーフになっているのが多くて記憶に残っています。犬はかなり大きいですが鎖は付いていません。人に寄り添うように並んで歩いています。
夏のバカンス中に幼児の体調が悪くなりました。診療所の入り口に”○日から〇日まで休診。△へ行ってください”と住所が張り付けられていました。和仏・仏和の辞書を片手に“はしか”ではないかと尋ねたら“そうではない“と。パリに帰ってきて掛かりつけの医者に行きましたらやっぱり”はしか“でした。地方の医者が藪医者だったのかも?と意地悪く思いました。待合室に薄茶色の大きな犬が置物よろしく動かずに吠えもせずじっと静かにしていました。飼い主が診察を終えた時医者から角砂糖のご褒美をもらっているのを見ました。勿論鎖は付いていませんでした。
犬を飼えるのは富裕層、大型小型の犬を連れてゆったりと静かに誇らしげに散歩しています。知人の家はスイスから連れて来た熊のように大きく真っ白い犬を飼っていました。問題は犬の糞。神聖とされるバゲットを地面に直かに立てかけて立ち話を楽しんでいるフランス人。そこには犬の糞やおしっこの跡があるのに!日本人にはとてもとても考えられないことなのです。誤って踏もうものなら一大事。右足で踏んだ? 朝踏んだの? それなら良いことがある!色々な理由を付けて大騒ぎになります。広い歩道を歩くのにも注意がいるのです。それで糞の後始末をしなかったら罰金を課すという公示が出ました。でも一度も始末をしている人も罰金を徴収している人も見ませんでした。ほどなく忘れ去られたのでしょう。元の木阿弥‼ 落ち葉と犬の糞は車道と歩道の段差に空いた穴に長い竹箒を持った黒人の掃除人が朝な夕なに水と共に流しています。その人たちの仕事を無くさないように失業対策だ!と聞きましたが本当の事は私には分かりません。

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