追憶のオランダ(65)アンティークタイルへの旅(続)
美術館での展示といえばは絵画・彫刻などが中心だが、アンティークタイルも芸術品としてそれぞれの美術館には展示・収蔵されている。その中で、最も心が躍ったのは家の近所でもあったのボイマンス( Boijmans )美術館(左の写真)。そこはブリューゲルの有名な「バベルの塔」をはじめ16-17世紀の有名なフランドル絵画がたくさん収蔵されていて、これはこれでよく観に行ったものだが、私のもう一つの興味は少し違った場所にあった。あまり目立たない殺風景な部屋に幾つものスチール製の大きなキャビネットだけが設置されているのだ。大きな地図などのようなものを収納するあまり底が深くない引き出しが何段にも付いている。その引き出しは想像するよりも重く、一段ずつそろりと引き開けてみると、中には何枚ものタイルが整然と並べられている。何という展示方法だ。 次から次へと引き出しを開け、その都度ため息の連続だったことを今でも思い出す。欲しいと思っている図柄のものがいくつもあるではないか。まさに、よだれが出そうな感じだった。実際、出ていたかもしれない。
タイルの展示では多くは何枚かを石膏・モルタルで一枚の大きなパネル状に固定して壁などに飾られていたり、ガラスケースの中に一枚ずつ並べられていたりしているが、ボイマンスでは引き出しの中。
また、実際に使われている建物でタイルを見学する場合は、ちとそれまでの鑑賞方法とは違う。フェルメールの絵をご覧になれば、タイルがどのように使われているかがよく分かるのだが、壁の一番下の部分、床と接するところに一列に約13cm四方のタイルがずらりと並べて貼り付けられている。彼の絵は殆どが室内の絵で、そこにはタイルが描きこまれていることが多く、そのタイルには天使とか子供の遊びなどのモチーフが細かく描かれている。代表作「牛乳を注ぐ女」の画面右下にご注目。
タイルの目的はと言えば、モップ・ほうきなどで床掃除をする時、水濡れしてもいいようにタイルが貼られているわけだ。というわけで、実際の建物に使われているものを見学する時には、薄暗い(大体が古い建物は照明がとても暗い)建物の中で殆ど床に這いつくばって壁際の一枚一枚を見て回ることになる。他に客がいる場合、「こいつ何をやっているのか」と怪訝な眼で見られることも何度かあった。そこでタイルを指さし、素晴らしいタイルを見ていると言うと納得してくれ、私と同じようにのぞき込む人もいた。また、古い建物では必ずといっていいほど各部屋に暖炉が切ってあり、その内壁を飾っているのもこの種のタイルだった。それも見て回る。ある時、古めかしいレストランで食事することになったが、その時、店の人は中庭に面した明るい窓際の席を勧めてくれたのだが、タイル張りの暖炉が目に入った私は当然のこと暖炉の側の席を希望した。おかげで、そこのタイルもじっくり見学できた。他の客が座ってしまっては、後ろでゴソゴソするわけにはゆかぬから。
引き出し方式は、版画とか、昆虫の標本とかでは見たことがありましたが、タイルとは。よほどたくさんのコレクションなんだろうなあ。フェルメールの絵のこんなところにタイルがあったとは全く気づいていませんでした。装飾以上の合理的な意味もあったというのも驚きです。一つお気に入りがあると、美術館はもちろん、レストランでも建物見学でも、自分の特別の楽しみがあって素敵ですね!
chansumiさん
コメント有難うございます。
本文には書かなかったついでの話です。
このキャビネットの抽斗を前になぜか思い出したのが、プロの泥棒の話でした。プロの泥棒は、タンスは手前に引き出した抽斗が邪魔にならないように下から順番に開けていくという。衣類を入れているタンスならすべて引き出しても前に倒れたりはしないだろうが、このタイルがいっぱい入っている抽斗をすべて開けると、おそらく前に倒れてくるかも・・・。
私は、プロの泥棒のやりかたではなく、上から順番に開けてはまたもとに戻し、2段目3段目と拝見しました。