人声天語9~文明の利器と原発の恐怖
ロシアのウクライナ侵攻で液化天然ガス(LNG)が急騰し電気料金が跳ね上がった。この影響で調達に苦しんだ新電力会社が撤退に追いやられた。電力各社は、経済合理性を追求した結果、発電所の新設を控えるようになった。こうして国が進めてきた電力自由化が今岐路を迎えている。
現政権は、原発を最大限活用する方針を掲げ、昨年閣議決定した「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と明記した。現在全体の5.5%にとどまっている原発による発電量を、30年度には20~22%まで増やす目標を設定した。
政府は、二酸化炭素(CO 2)を排出しない「脱酸素電源」の確保を目的として、「電力投資について制度・資金両面で支援策を強化する」と明言した。これまで大手電力が原発に対する国の支援策を強く求めてきたものに応えたものた。そしてこの策は、建設費を電気料金に上乗せする形をもとに作られている。
以上の報道を見て、福島原発の事故以来、政治家の間でも「核か非核か」が議論されるようになり、少しは安全な方へ舵が切られるのかと期待したことが裏切られていることがはっきりした。核廃棄や非核といった言葉が殆ど出てこず、原発ありきの前提が目立つ。つまり、日本のエネルギー政策は今、確実に「原発回帰」へと転換したことを認識すべきである。
ここまで前提としてとりあげた上記の報道で、私は非核論を展開しようとしているわけではない。この背景に潜むひとつの大きな問題についてお伝えしたいのである。上記のような報道をあなたはどのような手段で見ていますか? テレビですか? 新聞ですか? はたまたスマホで見ていますか?
2022年末に「ChatGPT」がリリースされて以降、いわゆるマグニフィセント7(GAFAM※+エヌビディア+テスラ)と呼ばれるテクノロジー企業7社間を中心に激烈な競争が起こっている。いわゆる生成AIの自社開発に膨大な金額をつぎ込んでおり、この傾向は留まることを知らない。
ChatGPTに1日6000万回のアクセスがあり、2億件のチャットに応えることで消費する電力は、50万KWh(キロワット/時間)を超える。これはアメリカの17000世帯の1日当たりの電力消費量に相当する。世界全体では460万TWh(テラワット/時間)となり、2026年には1000Twhに達する可能性があるという。これは日本全体の総消費電力量に匹敵する。また、アメリカの電力消費量の25%がAIによって消費される計算になるという。
つまり、AIという便利な文明の利器が使われる度に膨大な電力が消費されるのである。このことは、従来の発電設備の規模では到底賄えない電力量が必要になるということを意味する。世界では既に、新たな原子力発電設備が増設されたり計画されたりしている。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界的なクリーンエネルギーの推進により、原子力発電は2050年までにおよそ2倍になり、供給も倍増するはずだという。もはや最も効率の良い発電設備である原子力発電に頼るしか方法ないのだろうか。脱原発を唱えてもそれは絵に書いたモチになる可能性が高いのだ。
(※GAFAMとはアメリカの株式市場においての主要5銘柄(グーグル〔アルファベット〕、アップル、メタ・プラットフォームズ〔旧・フェイスブック〕、アマゾン、マイクロソフト)を指す。)