人声天語5~藤川球児の才能
野球が好きでテレビ中継をよく見る。放送では、アナウンサーと解説者とのコンビでいろいろな話をするが、興味があるのは、ピッチャーとバッターの駆け引きだ。ピッチャーは、ヒットを打たれないようにするための配球をキャッチャーと共に考える。一方、バッターはピッチャーの配球を読んでのバッティングとなる。
投手が初球から2球目3球目と、どこにどんな球種を投げて攻めるのかを見ているのは面白い。今、巨人の菅野の場合、配球は信頼するキャッチャー小林にすべて任せっきりだという。そうすることで結果も出ているので、サインに対して殆ど首を振らない。このようにピッチャーとキャッチャーの相性や信頼関係も重要な要素となる。
今の解説者の中で私のイチ押しは藤川球児である。現役のころは阪神ファンでもないし、彼のことはあまり知らなかった。最近、NHKでの解説を聴くようになってその一言一言に感心させられている。野球の試合内容そのものよりも彼の解説により惹かれるのだ。
ピッチャーが投げる球種やコースをどう考えているのか、それに対してバッターは何を考えているのかを一球ごとに解説してくれる。その予想がズバズバと当たる。結果が出たとき、出なかったときのそれぞれの理由を聞くと納得できることばかりだ。実に明快で腑に落ちる。こんな解説は今まで聞いたことがない。
解説者は、選手の心理を解説してみせることで視聴者をより楽しませることができる。解説者の殆どは現役時代ある程度活躍した元選手でありみな経験豊富だ。元投手、元野手、メジャー経験者など人によりさまざまな解説が聴けるのも面白いが、大きく分けて「真面目派」と「お笑い派」があるように思う。あるいは「理論派」と「直感派」と言い変えてもよい。
お笑い派が真面目でないという意味ではなく、言い換えれば、裏話など普段は聴けない話などを披露して視聴者をより楽しませようとするサービス精神旺盛な人のことだ。例えば、中畑清、達川光男、川藤幸三、宮本和知などになろうか。中身がないとは言わないし、理論も立派なものを持っているが、自分という人間の役割をよく理解していて、別のやり方で視聴者を楽しませようとしている。いずれも、話を聞いていて楽しいのは間違いない。
一方、解説者の多くが真面目派になるだろう。ただ、真面目な話にも二種類あって、技術的な詳しい解説や心理を深く分析した話ができる人とそうでない人がいる。アナウンサーの質問にただ答えるだけの平凡な解説はつまらない。やはり専門家として一歩踏み込んだ内容のある話を期待してしまう。
理論派の代表格は、昔で言うと野村克也。選手としても監督としても輝かしい実績を残した。その野球理論は素晴らしく、多くの選手に影響を与えたことで知られる。解説は微に入り細に入り、技術面からも心理面からも野球というものをこれ以上なく楽しませてくれた名解説者でもあった。
藤川は苦労して立派な投手になったが、まずこんなに流暢にしゃべる人だとは思わなかった。声も適当に柔らかく耳に心地よい。まして話の内容がいちいち理論的で頭の中がきっちりと整理されているように思う。同じNHKでたしか先に解説者となった宮本慎也がいる。彼の解説も内容があり好きな解説者の一人だ。
野球選手が現役を引退して他の職につくときは大変だろうと思う。多くは野球一本でやってきた人が殆どだろうからまずは野球解説者が早道であることは間違いない。しかし、だれでも解説者になれるわけではない。「名選手必ずしも名監督ならず」とよく言われるが、「名選手必ずしも名解説者ならず」である。
グラウンドで多くのファンを魅了してきた選手でもマイクの前で視聴者を楽しませるのは至難の業である。何が必要なのか考えてみた。まずは、きちんとした野球理論を持っているかどうかだろう。そして、その内容を的確な言葉にして視聴者にわかりやすく伝えることのできる才能だろう。
藤川はピッチングと同様に、いやそれ以上に持てる才能を発揮して、素晴らしい解説者として成功すると思う。暫くは楽しませてもらえそうだ。